先生もの 東村アキコ「かくかくしかじか」を読んで

 

かくかくしかじか 1

かくかくしかじか 1

 

 

本年度の文化庁メディア芸術祭、マンガ部門大賞の東村アキコ「かくかくしかじか」を読んだ。

 

作者東村さんの現在までに至る漫画家人生を振り返った自伝的な作品なのだけど、この人の得意であるカラッとした人物描写が、事実をベースにしたこの作品でも生き生きと用いられている。

特に、作品の肝である東村さんの師匠、絵画教室の日高先生との数々のやり取りは、時々ほろっとさせる描写もあるのだけど、必ず笑える描写を入れたりするので、読んでいる側も辛くなりすぎず、次へ次へと読みたくなるのがさすがだと思った。

ちなみに、シリアス⇨コメディ⇨シリアス⇨コメディ⇨…という大きな揺り戻しで作品は進行するのだけど、各巻の終わりは必ずシリアスで終わらせるところに、作者のこの作品に対する誠意を感じるし、作品をどう受け取って欲しいのか、という作者のメッセージであるように感じた。

 

また先生との関係性を書いた自伝的作品といえば、四方田さんの「先生とわたし」を思い出す。

 

先生とわたし (新潮文庫)

先生とわたし (新潮文庫)

 

 

自伝的作品は、当然ながら作者自身が主人公なので、読んでいる時に感情移入していた気持ちからちょっとした描写でふと作者の自意識に違和感を覚えることもある。

でも、「わたし」を語りながら上記の2つの作品のように師弟愛をメインに据えることで、(物語の中で)作者の自意識に常に反省や客観が生まれるし、過去の失敗が痛々しさだけで終わらない効果を生んでいる気がする。

そして何よりもその純粋な人間関係を素直に美しいと思えることが私には多い。

師弟愛は人間関係の中でも愛憎が最も相反する関係の一つだと思うが、だからこそ過去のものとして語られるとき、時として他の関係よりもより強く人を惹きつけるのかもしれない。